平成20年度は量子ドット作製技術の高度化に関する研究を主に行った。これまでは主にGaAs(100)基板を用いていたため、ピラミッド状量子ドットを作製すると、量子ドットの均一性が著しく劣化するという大きな問題があった。今回、Ga極性面であるGaAs(311)A面を使用する方法を新たに開発し、ガリウム液滴を非常に弱い強度の砒素照射で結晶化してもピラミッド型量子ドットが形成可能であることを見いだした。これにより、量子ドットのサイズ均一性が大幅に向上し、発光の半値幅を約1/3に低減することに成功した。結晶化後の構造の詳細な構造観察により、基板表面に於けるガリウムの拡散の抑制及び結晶方位の異方性により、形成機構は(100)面上の一重リング構造の形成と類似であるが実質的にピラミッド型の構造へ結晶化していることが明らかとなった。また、同面方位を用いることにより量子ドットの面密度を増加させることにも成功し、最大で10^<11>/cm^2を超える量子ドットの作製も実現した。続いてこのように作製した量子ドットを用いて光励起によりレ-ザ発振を試みた。量子ドットが均一化したことにより、低温から室温までの温度域でレーザ発振が得られた。これは、格子整合系のピラミッド型自己形成量子ドットとしては世界初である。量子ドットの密度を上昇させた試料に於いては、サイズが小さくなることにより、高温域での発振特性はキャリアの熱活性化により悪化するものの、低温域では温度特性が改善する様子が観察された。これらに関しては今後さらに研究を進める予定である。また、量子ドットの高密度化を目的にその他の面方位基板上に於ける液滴エピタキシー法を試みた結果、(110)面上で、ステップ端に起因する配列効果を実現した。これは、レーザとはあまり関連しないが、配列量子ドットは量子情報デバイスなどへの応用が期待されることから、今後の発展が期待される。
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