研究概要 |
今年度は主に,研究課題に挙げた乱数やextractorと関係が深いentropic securityについて研究を行った.特に,entropic securityが基盤にする計算量理論的な安全性概念である「強秘匿性」と本研究課題である,情報理論的安全性の概念の関係を明らかにした.これらの関係を考えるために我々はまず,通常用いられる情報量ではなく,統計距離(変動距離)に基づいて情報理論的な安全性を三種類定義し,これらの関係を議論した.その結果,強秘匿性と統計的な識別不可能性,および統計距離で定義された情報理論的安全性のうち二種類の等価性が明らかになった.さらに,情報理論的安全性の定義のうち残り一つが他の安全性より強い概念であることを示唆する例を示した.これらの成果により,情報理論的安全性と計算量的安全性の強弱関係がより明確になった.この成果は国際会議IEEE International Symposium on Information Theoryに投稿し,採録されている(公表は2011年8月の予定).このような関係が実際の暗号化方式にどのような影響を与えるかについては今後の研究課題である. また,前年度に議論した「不正者の成りすましを検知する秘密分散法」について,共著者との議論の上,論文をIEEE Transaction on Information Theoryに投稿した. その他,回転を許す視覚復号型秘密分散法の厳密な安全性の議論や,ハッシュ関数の3-collisionに関する理論的な解析,full domain hashに対するより厳密な安全性証明を行った.また,物理的な複製困難性をもつ回路であるPUF (Physically Unclonable Function)を用いたID生成手法に情報理論的な手法を導入することで,より多くのIDを生成する手法を提案した.
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