ダイナミックモード原子間力顕微鏡では共振するマイクロカンチレバーが試料表面を走査するためのプローブとして用いられるが、近年、探針と試料表面間に働く力学的相互作用の非線形性に起因して、カンチレバーに不安定な振動がしばしば生じ、測定に影響を及ぼすことが明らかにされている。平成22年度は、本申請の目的にしたがい、不安定振動を抑制するコントローラの開発を前年度に引き続き、数値計算、実験の両面から遂行した。まず時間遅れフィードバック制御された系における目標軌道の安定性とフィードバックループに含まれるむだ時間の関係を数値的に検討し、その結果、むだ時間が目標軌道の周期に対して約5パーセントより大きいと目標軌道の安定性が失われることを見出した.次に、むだ時間が小さいほど安定化された目標軌道の特性乗数の成すスペクトル半径は小さいことを確かめ、より高い制御効果を得るため、むだ時間を周期の1パーセント程度まで抑制することが必要との実験指針を得た。FPGAを用いたコントローラのむだ時間はA/DコンバータおよびD/Aコンバータからなるデータ変換部の変換時間で支配される。本年度は、コントローラおよびデータ変換部の動作を検証し、前年度達成したサンプリングレート150MSPSをさらに高速化して200MSPSで動作させることで、さらなるむだ時間の抑制に実験的に成功した。本研究課題では、既にプロトタイプコントローラにより、カンチレバーに生じる不安定挙動の安定化に成功しているが、本成果は、実用化に向けてより安定動作するコントローラの開発に重要な知見を与えている。
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