これまで電子認証というと、一対一に対応する「ある特定のパスワード(ローマ字や数字の並び)の組が必要であり、一方をウェブなどに公開し、もう一方は決して漏洩しないよう秘密に保管をする。「秘密に保管すべきパスワードを、漏洩したり紛失したりしてはいけない」ことは言うまでも無く、万が一そのようなことがあった場合にはこれら鍵の組を作り直さなければならないし、登録し直さなければならない。電子認証機能をコンピュータなど用いて機械的な仕組みとしてシステム化する場合、検証するためのパスワードがこのような理由でしばしば変わり得るということは、極めて不都合な問題であり、電子認証技術がより広まっていく上での大きな足枷となっていた。そこに、IDベース暗号というものが提案された。このIDベース暗号を実現するために、楕円ペアリングをベースにする方法が注目されている。その処理を高速化するためには、ペアリング計算のアルゴリズム改良だけではなく、定義体(拡大体と呼ぶ代数系)における演算も高速化することが重要である。そこで本研究開発では、効果的にペアリングベース暗号を実装することができるFreeman曲線に注目し、これまでにFreeman曲線によるペアリングを効率よく計算するための拡大体の構成法について考え、その拡大体上演算(とりわけ乗算や除算)の高速化手法を提案している。本年度の成果であるCSS2009における発表成果では、昨年度までで実現しきれていなかった処理部分の高速化(必要となる加算回数の削減を実現)を提案し、その高速化手法を用いたときのXate(本研究室で開発した高速ペアリング)およびR-ateペアリングの実装結果を示すとともに、その効果を評価した。一方で、SCIS2010の研究成果では、ペアリング計算を効率よく並列計算処理できる手法を提案し、同様にその効果を評価した。これら2つの成果はともにペアリング計算や付随する幾つかの計算処理(楕円スカラー倍算など)の高速化にもそれぞれ数割で効率アップに寄与することを示すことができた。この成果を受けて、周辺技術にも多くのよい効果をもたらしており、それらの成果については本報告書の備考にあるWEBサイトを参照いただきたい。
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