本研究では、実環境に存在する様々な雑音に対して頑健な音源方向推定手法の確立を目指す。平成20年度は、第一段階として、音源と音環境とを適切にモデル化する。特に音源のモデリングについて検討し、 1. モデル設計のための特徴量抽出 2. 音源および音環境モデルの設計 3. モデルの妥当性検証 のそれぞれについて研究を行った。 まず、モデル設計のための特徴量として、音源と音環境のについて音響的特徴と空間的特徴とそれらの動特性を抽出し、効率的なモデリングを実現するための方策について検討した。音源モデルの設計にあたっては、音源の音響的特徴や音源の時間的な動きを、決定論的表現と統計的表現とによりそれぞれ記述した。一方、音環境のモデリングについては、時々刻々得られる音源方向の推定結果の信頼量性をコンパクトに表現することに成功し、その情報に基づいたモデリングについて検討している。例えば、音源方向推定値を与える空間特徴量の複雑さを手掛かりとして、これまでに存在しない柔軟な音環境モデリングの実現手法について検討している。 平成20年度は、構築した音源と音環境のモデルを用いた音源方向推定実験も行った。その際、室内で音源(人間)が受音点の近傍に存在する場合と、屋外で音源(自動車)が高速で移動する場合について、モデルの妥当性を検証した。前者では、劣悪な非定常環境下でも、非常に高精度に移動音源を追尾することに成功した。後者では、音源が受音点の遠方に存在する場合と近傍に存在する場合で、音響的および統計的性質が大きく異なるため、より厳密な音源モデリングが必要であることがわかった。 平成21年度は、音源と音環境を統一的にモデリングすることを目指し、より雑音に頑健な音源方向推定アルゴリズムを構築する予定である。
|