本研究は、バイオメトリクスの1つである署名認証に関連し、新しいペンデバイスの開発により、握り状態などの生体的特徴の推定を可能にするとともに、それにより得られたデータを用いてより頑健な署名認証を実現することを目的としている。署名を用いたバイオメトリクスは、リファレンスデータの変更が可能であることから、データ登録者の心理的抵抗やデータ漏えいのリスクが少ないため、指紋や静脈といった他の生体的特徴を用いるバイオメトリクスとはまた違った方向性で大きな意義を持つものと言える。 平成20年度は、生体的特徴の推定に役立ち、かつ特に偽筆署名作成時に大きな差が生じると思われる、筆記時の把持位置や把持力といった把持データを測定するためのペンデバイスについての研究開発を行った。まず、ペン周囲全体の圧力を可能な限り高サンプリングレートかつ高位置分解能で測定するためのセンサーの仕様についての検討を行い、ペン周囲に31個の薄型ひずみ式圧力センサーをマトリックス状に取り付けることでそれらの把持データを得るシステムを開発した。そして署名筆記時の把持データを用いた個人認証実験を行った結果、把持データは筆跡や筆圧といったタブレットから得られるデータ(タブレットデータ)のように個人認証に有効な特性を含むことが確かめられた。なおこの結果は2009年3月のバイオメトリックシステムセキュリティ研究会において発表された。把持データを単体で用いたときの認証率は現在12人の被験者に対し約90%であり、タブレットデータとの連携によりさらなる署名認証精度の向上が見込まれている。またこれまでの研究により、画像データやデータグローブから得られるデータとの比較・連携による生体的特徴の推定に関する検討が進んでいる。
|