本研究は、バイオメトリクスの1つである署名認証に関連し、新しいペンデバイスの開発により、握り状態などの生体的特徴の推定を可能にするとともに、それにより得られたデータを用いてより頑健な署名認証を実現することを目的としている。 これまでの研究により、ペン周囲にマトリックス状に取り付けられた31個の薄型ひずみ式圧力センサより筆記時の把持位置や把持力といった把持データを測定するためのシステムが開発され、把持データに対する個人性の評価が行われた。しかしながらこのときの把持データには、ペンを回転させてしまったりセンサとセンサの間を持ってしまったりという細かな把持位置のずれに起因するデータ再現性への影響が見られたため、チャンネル間の平均や相関により、お手本となるリファレンスデータとの整合性をとる処理を行うこととし、それに関する検討を行った。またこの把持データをさらに活用するため、把持データと筆記時の筆跡・筆圧・ペンの角度といったタブレットから得られるデータとの同期をとり、各データ間の相関などから様々なデータの関連性についての調査を行い、特にペンのストロークの方向と各指に対応する把持データの関連の有効性などといったことに着目した。これらの検討の結果を考慮し、なぞり偽筆による攻撃を想定した署名照合実験を行った結果、13名の被験者に対し約95%の認証率が得られたことから、今後の署名照合のさらなる頑健性のみならず、画像データやデータグローブから得られるデータとの比較・連携による生体的特徴の推定につながる成果が得られたと言える。
|