本研究では、システム生者学が扱う生命システムの対象がウイルスなどの微小生命から哺乳類まで多岐にわたることを考慮し、真核生物の中でも最小の生物である酵母に焦点に絞る。そして、酵母の生命現象の中でも癌細胞増殖に関連する細胞分裂を対象とし、そのシステム生物学におけるシステム同定手法を開発し、それをンパク質ネットワークの推定問題に応用することを目的とする。本年度の補助金により、最小二乗法に基づくシステム同定手法に用いて、酵母の細胞分裂の基本システムである6個のタンパク質から構成されるネットワークの推定をおこなった。まず、コンピュータ上に6次元の酵母の細胞分裂モデルを構築し、シミュレーションをおこなうことでシステム同定用の入出力データを生成した。つぎに、この入出力データに対して最小二乗法に基づくシステム同定手法を適用することで、6次元の線形時不変システムを導出した。導出されたシステムにおいて、システム行列をネットワークの結合強度と解釈ことで、酵母の細胞分裂に関連するタンパク質ネットワークが推定可能であることを確認した。さらに、得られたタンパク質ネットワークを数式モデルとして記述し、酵母の細胞分裂を表現する新たな非線形微分法式を導出し、感度解析手法を用いてロバストネスの解析をおこなった。推定されたタンパク質ネットワークは複数あるが、その中には細胞分裂のロバストネスを低下させるネットワークが在することが判明した。この解析結果から、この部分のネットワークに相当するタンパク質の相互作用を促進する薬品投薬などにより効果的に細胞分裂を停止させることの可能性が示唆された。本手法が酵母の細胞分裂におけるタンパク質ネットワークの推定に有効であることが示された。
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