研究概要 |
近年,地球温暖化に起因すると思われる異常気象災害が地球規模で年々深刻になりつつある.我が国においても,毎年のように集中豪雨による被害が発生しており,このまま現在の温暖化傾向が継続・進展した場合,従来の安全基準で整備された都市社会システムにおいて豪雨による被害がさらに拡大するであろうことは容易に想像される.そこで本研究では,メソ気象モデルを用いた数値実験をベースとして,近未来における集中豪雨制御のフィージビリティ(実現可能性)ついて検討を行う. 線状対流系と呼ばれる組織化されたメソスケールの降水システムに着目し,シーディング(ドライアイス等の散布)や他の気象力学的気象制御手法による人為的変化がシステムの発達過程にどのような影響を与えるのか,あるいは,降水システムの組織構造を意図的に崩壊させ,特定地域へのシステムの停滞を抑制するためには,どのような変化をどこにどの程度与えればよいのか,といった未知の問題点を明らかにするため,メソ気象数値モデルMM5を用いた実験的な数値シミュレーションを行った.1998年8月に発生した那須豪雨を対象としてシーディング(モデル内での氷晶核数の操作)を行う領域や高度,時刻などの各要素を段階的に操作する感度分析を行い,降水分布や積雲などの変化を解析することでシーディングが豪雨の発生・発達に対してどのような影響を与えるのかについて検討した. その結果,シーディング対象となる領域がある程度小さくとも,積雲発生地点周辺の比較的低い高度においてシーディングを行うことで高い豪雨抑制効果が得られることや,たとえ低い操作倍率であったとしても,シーディング実施のタイミングによっては高い抑制効果が得られる場合もあることなどが明らかとなった.今後はさらに,他の集中豪雨イベントでも同様の結果が得られるかを検討するとともに,シーディングによる降水システムへの影響のメカニズムを明らかにすることが必要である.
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