研究概要 |
本研究では, 複数の衛星観測情報を用いた高度な雲微物理データ同化手法を開発し, 気象モデルの初期値改善とそれによる降水の数値予測精度向上に取り組む. 平成20年度においては, 衛星観測によって推定された海面温度情報の活用によるデータ同化手法の高度化に取り組んだ. 従来の雲微物理データ同化手法では, 観測演算子である放射伝達方程式において, 下部境界条件である海面温度に気象モデルの出力結果を用いていたが, 米国の地球観測衛星Aquaに搭載されたマイクロ波放射計AMSR-Eによる観測から推定された海面温度プロダクトをいることで, 高解像度かつ適時性の高い境界条件を与え, 正確に放射伝達方程式を解き, 同化結果の改善を図った. 海面温度プロダクトには宇宙航空研究開発機構(JAXA)によるものを使用した. JAXAアルゴリズムでは降雨域等の海面温度は欠測とされ, 同化対象全域がカバーされない場合があったため, 同化対象時刻に加え最近接時刻での海面温度プロダクトも併用するなどして同化を行った. その結果, 同化後の数値実験におけるピーク降水量がアメダス観測と非常に良く対応するとの結果を得た. また, 平均自乗誤差に関しても2.779から2.128に改善するとの結果を得た. 一方, 同化時刻以外の海面温度プロダクトの活用に関しては同化時刻との間に降水イベントが発生した場合, 海面温度変化が大きく同化時刻との連続性が失われてしまい, 同化を適用した場合の誤差の方が大きくなるといった結果も得た. 同化時刻における衛星観測情報を十分に活用するため, 既存の海面温度プロダクトではなく6GHz及び11GHzの観測輝度温度データを同化過程に直接入力値として用い, 海面温度の推定を含めたアルゴリズムの開発等が必要と考えられる.
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