研究概要 |
本研究では,複数の衛星観測情報を用いた高度な雲微物理衛星データ同化手法を開発し,気象モデルの初期値改善と,それによる降水の数値予測精度向上に取り組む. 平成21年度においては,衛星観測より推定された海上風速情報を活用したデータ同化手法の高度化に取り組んだ.従来の雲微物理衛星データ同化手法における観測演算子である放射伝達方程式の下部境界条件では,反射率の決定に必要な海上風速に定数(25m/s)を与えていたが,AMSR-E観測より推定される海上風速プロダクトを用いることで適時性の高い境界条件を与え,同化結果の改善を図った.現在の同化手法においては23GHz及び89GHZ帯の輝度温度を用いているが,海上風速プロダクトの活用は23GHz帯の同化結果に改善の効果をもたらすとの結果が得られた.一方,同化結果を用いた気象モデルによる数値実験では,降水予測への影響は小さいとの結果を得た. 本同化手法は積算水蒸気量及び積算雲水量を変化させ大気場の改善図るが,実行においては積算量の鉛直分布を与える必要がある.積算雲水量の鉛直配分時には雲頂高度及び雲底高度情報を用いており,従来はいずれも定数として閾値を与えていたが,実際は多様な雲頂高度を有する雲が存在する.そこで,従来8,000mとしていた雲頂高度の閾値を12,000m及び4,000mとして影響評価を行った.雲頂高度を変更した同化実験においては実際の雲分布に応じて顕著な影響がみられ,同化結果を用いた気象モデルによる数値実験においても,降水結果に大きな影響があるとの結果を得た.今後,他の観測衛星による雲頂高度分布情報を活用することで,データ同化結果にさらに大きな改善が期待される。一方,現在は雲水の有無に関しては気象モデルによる第一推定値を用いているが,場合によっては同化結果に致命的な誤情報を与えることがある.この点に関しても他衛星による雲頂高度分布の活用が有用と考えられる.
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