研究概要 |
沿岸域における水環境問題を解決するために,沿岸域の懸濁物質(SS)輸送現象を高精度に評価可能な数値モデルを確立する必要がある.本研究ではSSの凝集やフロックの崩壊を乱流エネルギー散逸率(以下,散逸率)で表現するWinterwerp(2002)のモデルを有明海に適用することを目的として,散逸率とSSの動態との関係を評価するための現地観測を実施した.しかし,1)水中顕微鏡で測定したフロック径にはプランクトンの影響が含まれている,2)微細構造プロファイラに搭載された乱流シアセンサーでは海面や底面近傍および密度勾配が大きい層の散逸率を評価することが困難である,などの問題があった.そこで,平成21年度は,2008年に取得したデータの再解析を行った.微細構造プロファイラによる散逸率の算定には,乱流シアデータの代わりに温度シアデータを用いることとした.その際,成層が強い状況下での温度シアによる散逸率算定の妥当性を検証するために,過去に取得された夏季のデータも併せて解析した.その結果,密度成層が弱い状況下においては乱流シアと温度シアのどちらを用いても散逸率の値は同程度であったが,密度躍層近傍では温度シアから算定した場合にのみ散逸率の大きな減少が見られた.これは,密度躍層における乱れの抑制を現していると考えられる.また,温度シアデータを用いれば,海面や底面近傍の情報も取得できるため,沿岸域における散逸率の測定には温度シアデータの使用が有効であることが確認された.一方,水中顕微鏡によって撮影された画像からプランクトンの影響を除去した結果,フロック径は10~15μm前後であることが確認された.WinterwerpのモデルにSS濃度と散逸率を入力してフロック径の時間変化を推定した結果,モデル係数を若干修正する必要があるものの,モデルによって現地海域のフロック径を概ね再現できることが確認された.
|