研究概要 |
本研究では,大規模地震が地域経済に及ぼす影響を,企業の垂直的連関性を想定した上での生産資本の損傷,また,地域間の交通ネットワークや電力・水道・ガスなどのライフラインといった重要社会基盤の損傷に着目して空間的応用一般均衡モデルを用いた間接被害推計のフレームワークを構築し,東海・東南海地震といった社会経済的インパクトの大きな災害の被害推計に適用して政策志向的な被害評価モデルとすることを大きな目的としている.その中で,平成21年度は以下を行った. (1) 災害の被害評価に係る応用一般均衡モデルの枠組みのブラッシュ・アップ (2) 垂直方向の連関性や同種異質財の扱いを考慮した経済モデルの構築 具体的に,(1)では多地域応用一般均衡モデルにおける地域間交易の定式化にフォーカスを当て,特に交易係数を用いるロジット型(Harker型)の式に関して代替案を検討した.その結果,MCIモデル(積乗型競合作用モデル)の利用により,「財の地域間流動量を備えた完全な地域間産業連関表を準備しなくても分析が可能」というHarker型の長所を引き継ぎつつ,「現況再現性が良くない」という短所を克服できる可能性があることがわかった.また,再現性については,地域や産業部門によって興味深い特徴が明らかとなった. (2) では,通常の多地域応用一般均衡モデルを拡張してモデルを構築したが,残念ながら分析結果を取りまとめるまでには至っておらず,今後早急に対応すべき課題として残った.交通や地域経済モデルのカバーする空間範囲が,問題に応じて様々に変化していることを踏まえれば,それと同様に産業部門のこうした考え方が重要になるケースも出てこよう.
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