研究概要 |
本研究は, ETCやICカード等によって実現可能なフレキシブルな料金設定に着目し, 従来ブラックボックスとして扱われてきた交通サービスレベルに対する認知メカニズムの分析を行うと共に, マーケティングの分野で採用されているYield Managementの概念に基づき, 既存の交通インフラを最大限活用し, 社会的に望ましい交通体系を実現するような料金政策を検討することを目的としている. そこで本年度は, 特に公共交通の利用促進の観点から, アンケート調査を実施した上で, (1) 交通サービスレベルに対する認知メカニズムの分析, および(2) 効率的なインセンティブ付与形式の検討, を行った. まず, (1) については, 認知心理学やマーケティングの分野において, 価値判断の基準になるとされる「参照点」の概念に着目して分析を行った. その結果, 交通手段の選択においては, 当該トリップに対して妥当であると考える支払い意思額である公正価格が満足度評価の基準として用いられる傾向にあり, また, 満足度は, 従来の離散選択型の交通行動モデルで仮定されているようなサービスに対する知覚値そのものよりも, 参照点からの知覚値の乖離量とより相関が高いことが明らかとなった. 上記の分析結果を踏まえ, (2) に関する分析として, 利用ごとに運賃を割引く方式(値下げ)と, プリペイドカードのように最初に購入した際にいくらかのプレミアムが付く方式(事前プレミアム), およびキャッシュバックのように一定金額分を利用した後にプレミアムが付く方式(事後プレミアム)の比較を行った. その結果, プレミアムが生ずる期間が最も遅い事後プレミアム方式は, 時間選好の観点から劣るものの, その影響は小さく, 逆に施策実施後に公正価格を若干上げる効果があることから, 特に割引にかかる原資が少ない場合には最も効率的な方式であることが明らかとなった.
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