研究概要 |
本研究は,ETCやICカード等によって実現可能な様々な料金設定に着目し,従来ブラックボックスとして扱われてきた交通サービスレベルに対する認知メカニズムの分析を行うと共に,既存交通インフラの有効活用の観点から,社会的に望ましい交通体系を実現するような料金政策を検討することを目的としている. 本年度は,まず前年度に引き続き,アンケート調査データを用いて運賃値下げと事前・事後プレミアム方式の比較分析を行った.その結果,低頻度の利用者ほど価格感度が低くなることや,将来の利用を過大に認知する傾向があること等が明らかとなった.また,これらの知見を踏まえ,分析モデルを将来の利用を想定した上での料金方式の選択という枠組みに拡張し,人間の近視眼的な認知特性を考慮した行動モデルを構築した. 次に,割引等のインセンティブを貨幣ではなくポイント等で代替した場合の効果の分析を行った.その結果,同一の割引率でもポイント制度の方が利用者満足度が高く,また,ポイント還元に際して「エコ」や「ステータス」などの付加価値を付与することで,少ない原資でも態度や行動変容を引き起こすことができることが明らかとなった. 最後に,他者に対する認知という観点から,環境配慮行動を対象に分析を行ったところ,既往研究で指摘されているような他者の協力率に対する認知だけでなく,他者の環境配慮行動の実施水準に対する認知を表す他者協力強さも個人の行動に影響を及ぼしていることが確認された.加えて,他者の協力率や協力強さが高くなると,逆に個人が環境配慮行動を実施する確率が低くなるというフリーライダー動機が存在することがモデル分析により明らかとなった.
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