バングラデシュ、ナワブガンジ市周辺の集落において住民から陰膳試料を集めヒ素濃度の分析を行った。また、各食品群や飲料水の一日摂取量についても調査・測定を行い、住民の総ヒ素量について推定した。その結果、調査地域のヒ素摂取量は、飲料水からではなくコメからの摂取が一番多いという結果になった。この理由としては、一つには現地の住民が地下水のヒ素汚染についての情報を得て、井戸水を直接飲用しなくなりつつあることが挙げられる。このことにより、ヒ素汚染が知られる以前のヒ素摂取量よりは現在の摂取量は大きく低減していることが推測された。ただし、調理用水の一部にヒ素濃度の高い井戸水を使用している可能性があり、このことがヒ素摂取量を増加させている可能性が示唆された。 また、実験室において炊飯用水のヒ素濃度を変化させて現地のコメの炊飯実験を行い、炊飯前後のコメ中ヒ素濃度を比較した。その結果、炊飯前後のヒ素濃度の変化量は、炊飯用水中のヒ素濃度に比例することが示された。ただし、コメの種類によりこの比例係数(回帰直線の傾き)は異なっていた。その理由について検討した結果、炊飯によるコメ中ヒ素の増加量は、水分増加量と炊飯用水中ヒ素濃度の積にほぼ等しく、コメが吸収した水に含まれていたヒ素がそのままコメに含まれていると考えることができた。つまり、炊飯前後によるヒ素濃度の違いは、炊飯用水中のヒ素濃度に加えて、そのコメが炊飯によって吸収する水分量に依存することが明らかとなった。今回の実験で添加したヒ素は無機のヒ素(V)であったことから、炊飯によるヒ素の水からコメへの移行メカニズムについて、無機ヒ素(V)の場合は、ヒ素のコメへの移行は水分の吸収と同様に行われることが示された。
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