研究課題
中枢神経系には血液脳関門という防御システムが存在するが、胎児・幼児は成人と比べ、この血液脳関門が未発達であるとされている。本年度は、こどもの血中鉛が脳へ移行し、神経細胞が曝露される鉛の量を推定、昨年度まで行ってきたin vitro試験の曝露濃度の妥当性を検討することを目的とした。具体的には、3週齢の幼若ラットに経口摂取で鉛を投与し、採取した血液と脳に含まれる鉛をICP-MS測定法を用いて定量し、血中鉛濃度と脳内鉛濃度との関係を把握し、ヒトの血中鉛濃度と比較検討を行った。投与量100mg/kg BW/dayのラットでは、血中鉛濃度および脳中鉛濃度の測定結果は、それぞれ平均値で20.95μg/dL、0.213μg Pb/g brainとなった。1991年から2006年にかけて欧州諸国で調査された子どもの血中鉛濃度は、ブルガリアで最も高く、25μg/dLを越えることが報告されている。ラットとヒトにおける体内動態の差異については検討する必要があるが、血中鉛濃度20.95μg/dLという値は、現実的に起こりうるレベルである。また、脳の密度は約1であるので、0.213μg Pb/g brainはおよそ鉛1μM(207μg/L=0.207μg/g)に相当する。脳組織において鉛の特徴的な局在はなく、一様に分布していると報告されていることから、脳における神経細胞も同程度の鉛の曝露を受けていると推察される。昨年度までの研究では0-1.0μMの範囲で酢酸鉛を神経細胞に曝露し、タンパク質の発現変動を調べたが、この曝露濃度範囲は一般環境における脳中鉛濃度として現実的なレベルであり、妥当な濃度設定であったことが確認できた。
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環境衛生工学研究
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International Journal of Arts and Sciences
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