本研究では、ビタミンAの代謝物であるレチノイン酸を真似て核内受容体の一種であるレチノイン酸受容体(RAR)にアゴニスト作用を示し、多様な脊椎動物種に外部形態異常などの生態影響を引き起こす可能性のある環境汚染化学物質"環境レチノイド" による水環境汚染に伴う健康被害や生態系崩壊の可能性を適正に評価するための基礎研究として、日本の水環境中における環境レチノイドによる汚染の実態を調査するとともに、水環境中の環境レチノイド特定のための分離・精製法について検討を行った。 酵母two-hybrid法を用い、近畿圏内の水環境(淀川、猪名川および大阪湾)および大阪府下の4つの下水処理場から採取した環境水試料のRARへのアゴニスト活性、アンタゴニスト活性、およびエストロゲン受容体、甲状腺ホルモン受容体へのアゴニスト活性を評価した。RARアゴニスト活性は実験に供した全ての河川水試料、海水試料において検出され、環境レチノイドによる汚染が水環境中に普遍的に存在していることが明らかになった。また、活性レベルも他の受容体と比較して高いことが確認され、環境レチノイドによる汚染が重大なものである可能性が示唆された。また、環境レチノイドによる水環境汚染の分布は、従来の内分泌撹乱化学物質研究の中心であったエストロゲン受容体アゴニスト、甲状腺ホルモン受容体アゴニストによる汚染の分布とは異なっていることが確認され、下水処理場が水環境中に存在する環境レチノイドの重要な排出源にはなっていないことが示唆された。 また、環境水試料からの環境レチノイドの分離・精製するため、固相抽出および高速液体クロマトグラフィー分析の条件について検討を行い、夾雑物を除去し、環境レチノイドを選択的に分取する条件を明らかにした。また、その検討の結果から、水環境中の環境レチノイドが極性物質であることが明らかになった。
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