研究概要 |
最適拡声レベルの予測手法を検討するにあたり, 20年度は, 残響音場における最適拡声レベルがどのような心理的メカニズムで決定されるかを検討した。具体的には, 最適拡声レベルに影響する心理的な感覚として, ラウドネスに着目した。複数の残響音場において, 音声の聴取レベルを最も聴き取りにくくないレベルに調整する聴感実験と, そのレベルにおける音声のラウドネスを音場間で比較する聴感実験の2つを, 正常な聴力を持つ20代の被験者を対象に行った。その結果, 以下を明らかにした。(1)最適拡声レベルは, 残響音の物理特性が変わっても, 大きく変化せず, 60から65dBA程度である。ただし, 音場の残響音エネルギが増加すると, 最適拡声レベルもゆるやかに上昇する傾向がみられる。(2)最適拡声レベルにおける音声のラウドネスは, 音場によって異なる。残響音がほとんど音声の聴き取りに影響を及ぼさない程度に小さい音場では, 残響音無しの音場において最適拡声レベルに調整した音声のラウドネスと同程度のラウドネスが最適と判断されるが, 残響音エネルギがある程度まで増加すると, より小さいラウドネスが最適と判断される。(3)残響音エネルギが増加しても, 最適と判断されるラウドネスはある一定の値以下にはならない。以上の結果より, 残響音場における最適拡声レベルが決定されるメカニズムには, 拡声レベルと可聴範囲にある残響音のエネルギ量が反比例することと, 音声が聴き取りにくいと感じないラウドネスに下限値があることの2点が, 大きな影響を与えると推察される。
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