(1) 分析枠組みの検討:文献レビュー等を通じて、本研究の分析枠組みの検討を行った。その過程で、分析枠組みの精緻化のためには、制度が変容することによって地域の自立的発展においてどのような成果がもたらされたのかを先行的・実証的に調査分析することが有効であるという視点を得た。 (2) 空間計画制度変容先行国における実態と評価:2000年代初期に新たな国土・地域計画制度を導入したアイルランドを対象に調査を行った。(1)制度運用の観点からは、戦略的計画先導アプローチにより、プランニングにとどまらない「地域の発展の枠組み」を策定することの理解が深まるなど戦略的な考え方が浸透しつつあること、(2)ガバナンスの観点からは、地域計画指針の策定における関係者の協働や、ゲートウェイに指定された都市においてはローカル・ガバナンスの形成が国の政策とボトムアップ双方からなされていることがわかった。(3)成果については、地域間格差が縮小している傾向はあるが、金融危機によって国土政策が停滞するなどの影響が出ている。空間計画アプローチの導入によるこれらの成果は、日本の今後の国土形成計画・広域地方計画のあり方を考える上で有益な示唆となる。 (3) 新規加盟国における制度変容:2005年にEUに加盟した旧社会主義国であるチェコを対象に、計画制度変容に関する基礎的調査を行った。チェコでは、2006年に「空間発展政策」が策定されるとともに、旧社会主義体制崩壊時に廃止された「地域」区分が新たに設置された。一方で、グローバル化のもと都市開発が急速に進み脆弱性を抱えるプラハ首都圏では、戦略的・統合的アプローチが試みられているものの、旧体制への反発から周辺地域との連携が進んでいない実態が明らかとなった。
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