本研究では、都市における空間現象のなかでも、特に健康被害や犯罪といった住民の日常生活を脅かす危機的現象の把握のための、発生地点の空間的傾向に着目した分析手法を開発することを目的としている。 本年度は、先行研究の整理として、本研究の分析手法の開発部分と特に関連が深い、空間統計やオペレーションズリサーチなどの分野を対象として、点分布をはじめとした空間パターン分析に関する文献調査をおこなった。次に、都市において生じる危機的現象の過去の一定期間の発生地点を、カーネル密度推定法を用いて密度分布へ変換し、その過去の発生状況を表す密度分布を、限られた少数の点分布からなる未知の密度分布で近似するという、本研究の中心的課題となる分析アプローチについて検討した。そこで、元の点分布による確率密度関数と、未知の点分布による確率密度関数との差異を表す、積分二乗誤差の定式化をおこなった。この定式化のための積分計算においては、カーネル関数として比較的単純な関数を用いた場合はもとより、一般的な正規分布を用いた場合であっても、その後のデータ分析において計算量を軽減できる関数が、積分計算の結果として得られることが確認された。さらに、この積分二乗誤差を目的関数とすることで、将来の発生地点となる各位置座標に関する多変数最小化問題を設定し、現象の将来的な発生地点を推測する方法論を示した。 また、本研究で提案される分析方法を適用する、危機現象の候補の一つとして、感染症流行などの健康危機現象を採り上げ、各地点の流行発生状況を表す点データをもとついた密度分布の傾向について吟味するなど、本研究の応用化が可能となる現象の調査をおこなった。
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