本研究では医療制度改革に伴って施設の増改築に先駆的に取組んだ療養病床の事例を対象に研究を行った。 A病院では介護施設への転換に備えて建物の増改築が計画されたが、その方針として個室ユニットの導入が打ち出されていた。一般の療養病床では、老人保健施設の施設基準に対応する為の改修すら難しい状況にある中、さらに厳しい個室ユニットの基準を導入した背景には、高齢者にとっての療養環境の向上や、他の医療・介護施設との差別化といった点に加えて、今回の制度改正だけでなく将来の制度変更をも見据えながら、長期的に安定した運営体制を確保したいとの意向が強く影響している。 2006〜2007年の増改築の中でも、個室化とユニットケアを進めていた介護病床では既存病棟の改修は殆どなされていないが、多床室主体の医療病床では居室間の壁を移動させる等の大幅な改修が必要となった。また介護施設への転換に備えて、全病棟にスプリンクラーを設置する工事も併せて行なわれていた。こうした増改築が可能となった要因として、これまでに介護病床で個室化とユニットケアを進めていた事、敷地内に増築スペースを有していた事、鉄骨造の採用により工期・費用の面で増改築がしやすかった事が挙げられる。 増改築への新たな投資が困難な病院も少なくない中で個室ユニットを導入する工事が可能となった背景として、低所得の高齢者が多いという地域特性から、A病院では患者への負担を出来る限り抑えるために、鉄骨造の採用により工期の短縮や躯体の軽量化等、建築費のコストダウンに長年に渡って取組んでいた事が挙げられる。他の療養病床と比較すると、長期借入金の割合を低く抑えながらも施設設備を有効に活用した運営がなされており、新たな増改築工事への投資が可能な経営状況だったと考えられる。 今年度取上げていない過去の改修は現在分析を進めている所であり、次年度は長期間に渡る増改築過程を報告する予定である。
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