昨年度に得られた成果を元に、本年度に行った研究は以下の3点である。 第1に、被験者実験により得られたデータの分析を中心に実施した。特に本研究では、研究当初よりネットワーク科学の視点を盛り込んだ分析を計画していたことから、接触行動の履歴をネットワーク図としてとらえ、ネットワーク分析ソフトである「UciNet」を用いた分析を実施した。 同じ建築空間内で活動を行う異なる人物について分析を行うと、その人の属性(男女)やライフスタイル(役割や習慣)によって接触するモノの重要度(次数中心性・媒介中心性)が異なり、行動の履歴から生活行為を定量化する手段として有用であることが明らかとなった。これらの研究成果は日本建築学会計画計論文集などにおいて報告を行い、査読を経て評価されている。また、「行動をデザインする」(彰国社刊)にもこの内容は掲載され、一般書としてもその内容は発表された。 第2に、これまでのRFIDタグを用いた手法だけでなく、新たな手法についての検討も実施した。建築環境にさまざまなセンサが偏在するユビキタスコンピューティング社会を想定し、RFIDさえも使わないで接触動作をセンシングする手法についても検討を行った。 これまでの研究では、人間や環境のセンシングに特殊な機器を利用することが主であったため、機器類のコストが非常に大きくなることが課題であった。これに対し本研究では、オープンソースハードウェアという近年生まれた新しい概念のもとに販売されている「Arduino」をベースとし、非常に安価なコストでセンシングを実施することができるセンサノードを開発し、これを利用して実験を実施した。 第3に、人間とモノとの接触をとらえる手段として「人体通信」を利用した研究を昨年度に引き続いて実施した。特に本年度は、商業施設での利用場面を想定した実験を実施した。
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