◇研究の目的と背景 近年、日本では環境的・経済的見地から建築のストック活用の重要性が高まっている。現在、公営・公社・URの団地型集合住宅はおよそ500万戸あり、うちおよそ半数は築30年を超え更新が検討されている。住棟躯体や設備の更新技術はそれぞれ研究が進められているものの、団地全体の雰囲気に大きな影響を及ぼす団地住棟まわりや団地空間全体の共用部の改修はいまだ着手されていない。本研究は、1977年以降団地更新事業を継続しているフランスの経験を研究することによって、日本の団地更新に有用な知見を得ることを目的とし、特に1990年代半以降重視されているresidentialisationという手法の効果を調査した。 ◇研究の方法 2009年9月および2010年1月に、residentialisation事業・団地更新事業が実施されたフランス各地の7団地にて現地調査・及び関係者へのヒアリング調査を実施した。さらに、このテーマに詳しい建築家・研究者・担当行政部局担当者25名以上ヘヒアリング調査を行った。関連する文献を収集、内容を分析した。 ◇調査結果 residentialisation事業によって、団地空間の管理の責任の所在が明確になり、従前より管理は総じて容易になり、概ねよい効果が観察された。成功例では住民および事業関係者間のコミュニケーションが重視されていた。荒廃団地の改良・よい住環境の維持にはその後のNPOなどの粘り強い人的介入が一層重要である。residentialisationの概念は1990年代半ばには、unite residentielle(住居単位)というアメリカの近隣住区に影響された「住空間の公私の再定義」というものだったが、近年は住棟の安全化を意味するものと捉えられがちで、要塞化する団地も出現してきている。
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