筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis : ALS)は、成年期以降に大脳運動皮質錐体細胞から脊髄に至る上位運動ニューロンおよび下位運動ニューロンが選択的に障害される神経変性疾患であり、1972年に厚生省より難病に指定されたという経緯がある。ALS罹病者の療養を支えるためには、医療・看護・福祉面でのアプローチに加えて、機能の低下に伴いALS罹病者の身体の一部になっていく機器・器具類、介護者などを含めた療養特性を明らかにし、療養環境を整えることが必要であると考えられる。そこで本研究では、ALS罹病者の代表的な療養場所である在宅およびALS患者の第三の療養の場として注目を集めている福祉施設において、臥床ALS罹病者とその家族の生活を罹病者の視点から切り取り、今後の医療・福祉計画の一助となるALS患者の療養環境を明らかにすることを目的とし、以下の知見を得た。 (1)ALS罹病者の生活展開はベッド上が主となるものの、身体状態や意思伝達の可否によって異なること、(2)住宅面積やベッド配置に伴う視界が療養環境に影響を与えていることを明らかにした。また、視覚だけではなく自身の家に漂う独特のホーム感や日常生活の音が罹病者に生きる活力を与え、意思伝達が困難となっても残存機能に働きかけるような刺激を作り出すことで、罹病者にとっての療養環境を提供できることを確認することができた。ベッド上で過ごすことが大半を占める罹病者に対して、私たち健常者はベッド上で過ごすことの意味を当事者の立場からもっとみつめなおさなければいけないだろう。視界という限られた「窓」に何を置き、何を見て病気の人生を過ごすのか。これは、一人の人間の尊厳を考えることにつながる課題であると思われ、国の政策と含めた総合的な療養環境の体制づくりが望まれる。
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