本年度は再構築の実施された鉄道駅舎に着目した。近代初期に建設された鉄道駅舎が点在するヨーロッパでは、欧州統合や観光政策の影響で鉄道を利用する旅客数が増加し続けており、高速鉄道の導入や路線網の拡大、鉄道システムの更新、国際鉄道旅客輸送の拡張などに対応した駅舎の改善が、各主要都市において次々に実施されている。その中心国のひとつであるフランスも、歴史的建造物に指定された主要な駅舎の改良を継続している。こうした駅舎の再構築を各時代ごとに考察すると、次の3点の特徴が明らかとなった。(1)歴史的建造物に指定された駅舎の改善においても、今日要求される嗜好や機能性や利便性に対応するために、建築意匠と建築設備の両面に新たな要素を積極的に取り入れることが試みられている。(2)駅舎の改良は、単に鉄道の発展のみならず、都市再開発や地域計画などによる総合的な都市計画の中で検討され、駅舎そのものの再構築は各時代に整備された自動車、バス、路面電車、地下鉄などの都市交通の再整備と合わせて実施されている。(3)駅舎の再構築は、各時代の要請に対応してきたが、その中でも鉄骨造による主要な駅舎や、石造による代表的な立面は修復・保全が図られ、新たに必要となった建築は隣接地に増築される場合が多い。つまり、近代化の象徴のひとつであるフランスの鉄道駅舎では、歴史的・文化的価値のある建築の保存・修繕と、時代の要請に基づいた新たな建築造形の導入によって、建築デザインの融合した作品が高く評価されている。
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