フランスでは、歴史的建造物の潜在的な価値や魅力を最大限に引き出しつつ、現代建築の利点や快適性や機能性を加える再生事業が興隆を成している。こうした建築の再生が単なる構造や設備の改善にとどまらず、現代建築特有の要素の付加などによる意匠の向上によって、更地に新たに建築を建設する「新築」にはない、良い意味での「意外な」可能性を有した建築が各地で生まれている。さらに、こうしたタイプの建築が、環境負荷の軽減、遺産保全の推進、不動産価値の向上、観光事業の促進、産業移転対策、人口移動の改善、空洞化した都市への対応、軍事施設の転用などの先進国が抱える諸課題に柔軟に応える形で実現しており、これまでのデザインの流行や建築の潮流とは異なる新たな力強い動向を形成しつつある。 こうした事業の基本は、歴史的建造物の修復や修繕を中心とした保存にあり、その建築の竣工当時あるいは繁栄期などの最も高く評価された形に可能な限り近づくよう、改善が実施されている。こうした時代の後に増築された不相応な要素は減築または破壊の対象となり、その後の風化や劣化などで欠落した部分は増築または復元される。しかし高く評価されている作品は、このような保存のみに留まらず、意匠の面においても新たな要素が加えられたものであった。歴史的建造物と現代建築の融合に不可欠なのは、既存部の「保存」による「歴史性」の尊重と、新要素の「付加」による「将来性」の確保を偏りなく検討することである。
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