本研究の目的は、歴史的建造物を残す意味、とりわけ、古くなった建物の中に積み重なった年月の記憶を残すことの意義を検証するため、第二次世界大戦期の戦災建物の扱いに着目し、廃墟を廃墟の状態のままで保存した事例においては、なぜ、そしてどのようにその意義が認識され、事業が推進されたかを明らかにすることである。 この研究を遂行するにあたり、研究対象は主に英国を選定し、今年度は、ロンドンにおける約2週間の現地調査を行い、9月、日本建築学会において学術講演「ロンドンのシティにおける廃墟となった教会のオープンスペース化について-クライスト・チャーチを例として」を行った。 この研究では、19世紀から20世紀にかけてのロンドンのシティの教会堂をとりまく状況を明らかにしながら、とくにクライスト・チャーチを例として、第二次世界大戦期の戦災を経て、戦後、オープンスペースとして整備された過程を明らかにした。既往の研究では、シティの教会堂については、むしろ戦災をうける前の状態に復原された教会堂についての研究は見られたが、これらは、あくまでも建築的な視点からの研究であった。しかし、本研究は、廃墟となった教会堂が、もはや機能を持つ建築としてではなく、オープンスペースへと生まれ変わる過程を明らかにしたものである点が従前の研究と異なる。このような研究は、建築が建築としての実用的価値を失った後、都市において、どのような価値を見いだされてきたのかを明らかにした点で、建築学にとどまらず、文化史にも繋がる学際的研究である点に独自性がある。
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