本年度は、初年度の作業を続けて、第一段階で取り上けたイタリアの伝統建築と関連する、無形的な要素の保存に関する調査を継続した。イタリアでは、無形文化財保護制度がまだ行政的に設立きれていない。しかしながら、2004年の新しい文化財保護法はユネスコの国際条約が定義する無形遺産を初めて取り入れることを検討した。それでも、まだ無形遺産関連の有形遺産のみを法律の対象にしている事実には変わりがない。そのような状況で、建造物の伝統的な工法の消滅が強く認識されるようになり、近年、建築の伝統技術が研究対象となり、再評価され、その伝統を再生しようとする動きがみられるようになっている。 農村の伝統的建造物に関する無形的な要素(工法、材料、建築類型等)が研究・調査されたことは事実であるが、制度的な保存技術の継承制度には繋がらず、1990年代以降になって、具体的な保護のプロセスがようやく開始された。そこでは、有形文化財に付随する形で、建設知識と技術関連知識を保護することが試みられた。イタリアにおける保存は、建造物とその関連知識だけではなく、それらを環境や景観の一部として保存することが明らかになった。 以上の成果を受け、日伊比較考察として、日本の「文化財保護法が」1975年以降に定めた文化財の保存技術の中で選定されている「檜皮葺・柿葺き」、「茅葺」、「建造物木工」、「規矩術」、「左官」を参考に、イタリアでも、このような取り組みができないかを検討してみたが、保存技術の保持者の決め方に難点があることが次第に明らかになってきた。
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