研究実績の概要 |
本年度は、日本と欧州(とくにイタリア)の比較を念頭に、国内外の二つの方向で研究を進めた。まず、世界各国で進展する文化財建造物保存行政の中で、伝統建築の技術や関係知識といった無形的要素がどのように認識されているかについて、例えばイタリアでは19世紀に既に伝統的な建築技術が歴史的建造物の保存修復において欠かせないことが正式に認められていること(修復憲章Carta del Restauro 1883)、近年でもその傾向が続いていることが分かった。その道のりは直線的なものではなく、20世紀には最新の技術を使うことが勧められていた。しかし、1960年代後半以降、歴史的建造物の保護を目的とした宣言や条約が、徐々に伝統的な建築技術や現場における専門知識の重要性を認め、その普及の必要性を訴え、建造物の修理現場でその利用を促進するようになったことも分かった(アムステルダム宣言1975、グラナダ条約1985等)。 日本国内の状況については、伝統建築の解体修理や移築に着目し、具体例を分析した。最終的には、建造物の保存修復事業における伝統技術の継続と、移築の場合は、それと新しい建築技術との共存を確認することができた。とくに新・旧技術共存に関する今後の可能性として、三つのケースを取り上げ、その事業の社会的な役割を検証した。旧清水邸書院復元(世田谷区)、旧松澤家住宅(北区)、誠之堂(埼玉県深谷市)の移築保存事例については、2014年8月にリュブリャナ(スロベニア)で行われたEAJS(European Association for Japanese Studies、ヨーロッパ日本研究協会)の国際会議で発表した。(8月29日、セクション1・セッション7、概要Book of abstracts, pp. 65- 68, http://aas.ff.uni-lj.si/datoteke/eajs/334/bookofabstractseajs2014ljubljana3.pdf)。
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