22年度は、八角木塔の構造と意匠についてまとめた。現存する八角木塔には、中国山西省応県の仏宮寺釈迦塔(応県木塔)と、日本長野県の安楽寺八角三重塔しかないが、これらの規模と構造の形式はまったく異なっている。中国の磚塔や磚身木檐塔の木造を模した組物の構造をみると、内蒙古・遼寧省・河北省といった遼王朝の領域に属する八角磚塔は、比較的規模も大きく、応県木塔と共通する組物形式をもつ。一方、浙江省・江蘇省といったいわゆる江南の磚身木檐塔は、これらよりも規模が小さい。また一見、各辺3間の柱間のようだが、隅柱を丸柱とするもののそれ以外は角柱で、隅以外の組物は角柱直上からずれており、隅以外の角柱は厳密には柱でなく方立と解釈でき、各辺1間とみる方が自然である。安楽寺八角三重塔も各辺1間の構造であり、組物の形式も江南の磚身木檐塔と共通する。ただし、これらは規模によるのか地域性によるのか明確でなく、さらなる検討が必要である。 一方、高句麗・新羅の韓半島で発見されている八角木塔跡6例は、基壇規模しか判明しないが、三手先程度の組物を想定すれば、建物規模をおよそ推定できる。その建物規模はいずれも江南の磚身木檐塔と同程度で、上記の推定に従えば安楽寺八角三重塔の構造形式で復原することが可能と考えられる。一方、中国浙江省の雷峰塔跡および日本京都府の法勝寺八角九重塔跡は、規模が大きく応県木塔の構造形式を基本として復原することが可能と考えられる。発掘遺構自体が特異な日本京都府の樫原廃寺跡は、特異な上部構造が推定されており、日本奈良県の西大寺八角七重塔跡の基壇規模から推定できる建物規模は、両者の中間でいずれの構造を用いても上部構造はやや困難さがともないそうである。
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