研究概要 |
前年度の長時間破断材(約10,000h)の組織解析に引続き、今年度は組織の経時変化を追跡する目的で約2000時間クリープ破断材(ASME Gr.92鋼溶接継手)を取得するとともに、その組織解析を実施した。観察部位は、溶接熱影響部の細粒域で、応力の多軸度が高い板厚内部と多軸度の低い表面近傍とした。細粒域ではクリープボイドが観察されたが、多軸度の高い板厚内部では、表面近傍に比べてより多くのボイドが認められた。M_<23>C_6炭化物およびMX炭窒化物の平均直径を測定した結果、板厚内部と表面近傍の間で大きな差は認められなかった。約10000時間破断材では、板厚内部でのM_<23>C_6炭化物の平均直径は、表面近傍に比べて大きかったことから、経時変化として見ると、板厚内部では、より長時間側でM_<23>C_6炭化物の成長が促進されることが分かった。マルテンサイトラス組織におけるサブグレインサイズおよび転位密度を測定した結果、板厚内部と表面近傍の間で大きな差は認められなかった。約10000時間破断材でも両者に差はなかったことから、経時変化として見ると、クリープに伴いサブグレインサイズは増加し、転位密度は減少するものの、その変化過程は板厚内部と表面近傍で差がなかった。応力の多軸度が高い板厚内部では、特に長時間域でM_<23>C_6炭化物の成長が促進されることから、板厚内部での粗大なM_<23>C_6炭化物と母相との界面がクリープボイド生成起点となり、表面近傍と比べてより多くのクリープボイドを生成したと推察された。このことは、高Cr鋼の溶接継手で問題となっているTypeIV破壊を考える場合、応力の多軸度が空孔拡散の凝集を促進する効果のみならず、M_<23>C_6炭化物の成長を促進することによるボイド生成起点の増加を考慮する必要があることを示している。
|