本研究課題は、超音波共鳴法を用いて圧電性酸化物を中心とした固体材料の弾性定数、圧電定数およびそれらの温度依存性を精密計測するとともに、群論と格子力学に基づいた理論解析を通して、材料特性改善のための設計指針を見出すことを目的とした。今年度は英国・オックスフォード大学・数理研究所に長期滞在し、主に研究の理論解析に関する事項を推進した。今年度の主要な成果としては、機能性酸化物C12A7、α鉄単結晶、およびバルク金属ガラスに対する研究成果の論文発表が挙げられる。また、他の圧電性酸化物材料(α-サファイア、リチウムタンタレイト、リチウムナイオベイト、ランガサイト)に対する研究成果は投稿論文として現在取りまとめ中である。以上の研究成果から、当該研究課題における2年間の研究予定はほぼ全て履行できたと言うことができる。 これらの研究成果に加えて、超音波共鳴法の計測精度改善を目指し、従来の超音波共鳴法の基礎理論に関する再検討を行った。その結果、Ritz法を用いた従来の数値解析法は、変分問題の境界条件に関して理論的な欠陥を抱えていることを見出した。この欠陥は超音波共鳴法の計測精度を低減させている可能性が高いため、現在はその修正のための基礎理論の再構成を進めている。この研究は当初の研究予定を超えるものだが、「超音波共鳴法を用いた材料特性評価」という本研究趣旨から見れば極めて自然な延長であり、超音波共鳴法そのものの根幹に関わる重要な研究課題でもある。基礎理論の修正は現在も進行中ではあるが、本研究を通してこの重要な研究課題を見出すことができ、その着手に至ることができたこともまた当該研究の大きな成果の一つとして位置付けたい。
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