研究概要 |
昨年(平成20年)度,真空圧力下対応のFM-DFM装置をベースとした赤外線照射下での分子振動検出を行うためのFM-DFM装置の構築,ならびにその応用としてP(VDF/TrFE)薄膜におけるエネルギー散逸を検証した結果を基に,今年(平成21年)度は高感度化のための自己検出型プローブ(カンチレバー)を導入し,加えて分子系材料のエネルギー散逸メカニズムの解析として,主にそのためのデータの蓄積を行い,赤外線照射による光誘起相互作用計測に基づく,分子振動検出手法を行う装置を構築した. 特に散逸エネルギー量の正確な計測が本課題における要素技術であったため,カンチレバーの振動振幅の精密な制御・検出が重要となった.一般的なAFM装置を含め,本研究開発装置において,探針-試料表面との相互作用によってカンチレバーが変位した際に,その微小変位検出には「光てこ法」が用いられている.しかしながら,「光てこ法」として用いられるレーザ光はカンチレバーに照射される際に,干渉・散乱を伴うため,興味ある分子系薄膜(P(VDF/TrFE)に不必要な光が常に照射されることになり,光学活性や輻射熱の問題を避けることが大変難しいことが問題にあった.特に,原子・分子分解能を有する本研究装置においては,このカンチレバーの変位検出のための入射光ですら外乱となった. そこでプローブとして光学的な外乱のない自己検出型カンチレバー(圧電カンチレバー)を採用した.圧電カンチレバーは,シリコン製カンチレバーに上部電極/PZT圧電薄膜/下部電極の積層構造(ユニモルフ構造)を形成しており,カンチレバーが変位した際には,直ちに圧電薄膜による圧電効果によって検出可能となる.このような自己検出型カンチレバーにより,光学的な外乱のない,結果として赤外線照射の影響のみが検出可能となり,高感度な分子振動検出手法が実現された.
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