Ti-35Nb-10Ta-5Zr合金単結晶において我々が世界で初めて見出した交番変形誘起ω相形成について、その発現メカニズムを明らかにすべく、従来の[-149]荷重軸方位での交番試験に加え、(10-1)[111]転位と(101)[11-1]転位のダブルスリップが期待できる[012]荷重軸において試験を実施し、両者の挙動比較を行った。この結果得られた知見を以下に列記する。 ・[111]転位シングルスリップの場合のみならず、ダブルスリップが発現する場合でも、疲労軟化現象は発現する。但しダブルスリップの場合、その軟化の程度は若干低減する。 ・変形後の内部組織を観察すると、シングルスリップの場合同様、変形誘起ω相の形成が確認された。但し興味深いことに、この際形成されるω相は単一バリアントではなく、2種類のバリアントが領域を分けて形成した。この各ωバリアントにおける結晶c軸の向きは、同時に活動する2種の<111>転位のバーガースベクトルとそれぞれ平行なものが選択的に形成された。 ・活動する2種の<111>転位はその存在領域が限定され、転位は、自身のバーガースベクトルと平行な向きに結晶c軸を有するωバリアントの存在領域にそれぞれ偏って存在した。 以上の実験事実より、変形誘起ω相の形成は、交番変形時に導入される転位の存在、その運動を直接的に反映した相変態現象であることが極めて明瞭に明らかとなった。さらに本結果は、ω相の形成が自身のc軸と平行でないバーガースベクトルを持つβ母相内の転位運動に対し、大きな障害となることを、直接的に明らかにしたものと言える。本実験事実より、ω相形成によるβ-Tiの脆化機構には、β相内の[111]転位運動に対するω相の抵抗が、強い結晶異方性を及ぼすということが強い影響を及ぼしていることが示唆された。今後より詳細な機構解明に向け、Ti-Nb二元系に着目し更なる検討を行う予定である。
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