特殊環境下熱処理装置の雰囲気ガス調整部および冷却部に改良を行った。また、酸素の影響を極力少なくするために、雰囲気ガスの露点をモニタリングできるように改良を行った。改良した特殊環境下熱処理装置を用いてL-605合金に対してN_2、Arなどの種々の環境中で1073Kから1173Kの温度範囲で最長172.8ksの熱処理を施した。試料表層部に生成した窒化物層の厚さおよび硬さ、試料表層部の合金組成変化などの評価および窒化物の同定を行った。N_2ガス雰囲気中で1073Kの熱処理を施したL-605合金では、熱処理時間が増加しても試料表層部における合金組成に変化は認められなかった。一方、N_2ガス雰囲気中で1173Kの熱処理を施したL-605合金では、熱処理時間の増加にともない試料表層部のCr濃度が増加する傾向が認められた。また、Arガス雰囲気中で1173Kの熱処理を施したL-605合金においても試料表層部のCr濃度が熱処理時間の増加にともない増加する傾向が認められた。本研究によりArガス雰囲気中においてもN_2ガス雰囲気中と同様なCrの濃化が生じることが明らかになった。N_2ガス雰囲気中で1173K、172.8ksの熱処理を施したL-605合金試料の表層部に形成された窒化物はCr_2Nであり、その厚さおよび硬さはそれぞれ約10μmおよび約Hv340であった。L-605合金の実機燃焼試験により形成される窒化物層の厚さは本研究の熱処理とほぼ同じ試験時間で約50μmであるため、軌道上の暴露雰囲気を再現するためには熱処理雰囲気の圧力の影響についても検討する必要があることがわかった。また、いずれの雰囲気および熱処理温度においても、172.8ksの熱処理を施すことによりL-605合金の結晶粒径は約120μm以上に粗大化した。結晶粒粗大化および粒界析出物の形成もL-605合金の劣化に寄与していると考えられる。
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