研究概要 |
本研究課題では,スピントロニクスを既存の半導体デバイス技術に応用し,新規不揮発性高集積ロジック回路への展開のために「室温で高いスピン分極率を持つことが期待されるCFAS合金を用いたSi半導体への高いスピン注入効率の実現」を目指す。具体的には完全スピン偏極したハーフメタルを用い,不揮発性を持つシリコントランジスタの実現に必要な要素技術の開発を行う。ハーフメタルの候補として,L2_1構造を有するCo基フルホイスラー合金,特にCo_2Fe(Al_<0.5>Si<0.5>)合金(以下CFAS)に注目する。CFAS合金は高いキュリー点を持ち,フェルミ準位がマイノリティスピンバンドギャップのほぼ中央に位置するため,熱による影響を受けにくく室温以上でも高スピン分極率を保持できる。平成21年度の研究内容として,まず,MgO単結晶基板上に成長したCFAS/MgAlOx/CoFe接合を用いてCFAS合金のハーフメタル性を実証した。室温で102%,低温で162%の大きなTMR比に加え,コンダクタンスのバイアス依存性からマイノリティーバンドギャップの存在が明らかになりCFASがスピン注入に有効な材料であることがわかった。次に,CFASを用いたスピン注入デバイスを実現するため,Si(001)基板とCFAS層のミキシングを押え,接合抵抗を制御するために挿入するトンネルバリアの開発を行なった。まずMgOはSi(001)と大きな格子不整合(9%)のため高品質な接合の実現が極めて難しいことがわかった。そこで,上記のCFAS/MgAlOx/CoFeで発見されたMgAlOxバリアを発展させて,新規にエピタキシャルMgAl_2O_4(スピネル)バリアの開発を行なった。MgAl_2O_4はSi(001)との格子不整合が5%以下と小さく,またMgOに代る新規結晶性バリアとして使用できる。Fe/MgAl_2O_4/Fe(001)構造の作製を通して,室温で117%の大きなTMR比を実現し,非常に良好なバイアス電圧特性を得ることに成功した。したがって,Si上への高品質MgAl_2O_4バリア作製技術の確立がなされれば高効率スピン注入デバイスの実現に期待が持たれる。
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