1 超塑性は金属材料などで観察される塑性変形の一種であり、低い荷重の下で大きな均一伸びが得られる。革新的素形材加工技術として工業的に超塑性を利用しようとする潮流の中で、近年種々の超塑性材料の開発や超塑性特性の評価方法の標準化(JIS化)などの基盤整備が行われてきた。ところで、超塑性変形においてしばしば確認されるしきい応力の存在は、超塑性発現領域、すなわち超塑性成形条件を狭めてしまうため、しきい応力の発現機構を理解し制御できるようになることは材料科学的な関心であるのみならず工業的にも重要な課題である。本研究を行うことにより、しきい応力の本質を理解するための糸口がつかめる基礎的知見を得ることが大いに期待でき、この点に意義がある。 2 本研究では、微細な結晶粒を有する二元系マグネシウム合金を用いて、溶質元素の種類や濃度が超塑性しきい応力の大きさとその温度依存性・結晶粒径依存性に及ぼす影響を系統的かつ定量的に評価することにより、超塑性しきい応力の発現機構と溶質原子との関連性を検討した。研究成果の具体的内容は、次のとおりである。流動応力のひずみ速度依存性は、評価したMg-AlおよびMg-Yの両固溶体合金ともにしきい応力の存在を示唆した。しかしながら、結晶粒成長も考慮したしきい応力を解析したところ、Mg-Al固溶体合金のしきい応力はなくなり結晶粒成長に起因した見かけの現象であることが分かった。一方、Mg-Y固溶体合金では結晶粒成長を考慮してもなおしきい応力は存在し、Yの粒界偏析がしきい応力の発現に関連していると結論づけられた。
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