ダイヤモンド表面は特異な物理化学的性質を有しており、表面反応を用いた生化学センサーや電子放出素子としての応用が期待されている。ダイヤモンド表面はダングリングボンドの終端状態により、表面近傍のバンド構造や電子親和力が変化することが知られている。これらは水素終端によるp型表面伝導層の形成や電子親和力の変化として観察される。本研究では、これまで報告の無い窒素終端構造の形成プロセスとその電気伝導性評価を目的として研究を進めている。初年度である2008年度では、バイアス処理とシーディング処理の違いによる水素終端表面からの電子放出特性の違いを評価した。こうして評価された表面を出発点とし、窒素終端を試みるプロセスとして、アンモニア溶液中での電気化学反応による表面状態の制御を試みた。電子放出においては微細な二次形成核を有する多面体のダイヤモンド粒子からの電子放出が1MV/m程度と極めて低い電界強度で生じることが明らかとなった。こうした粒子の形成過程を探るため、6kPaという比較的高い圧力で生成されるプラズマ中でのDCバイアス処理におけるイオン加速の数値計算と"その場"のイオンフラックス計測を行い、イオンの表面へのエネルギー輸送が10eV以下に制限されていることを初めて明らかにした。電子放出表面の溶液処理においてはアンモニア水溶液中での正負のバイアス印加を行うことにより表面状態が変化し、電子放出特性が消失することが確認された。今後はこれらの表面をXPS、AESにより詳細に分析するともに、窒素ラジカルをダイヤモンド表面へ照射する手法を用い高真空中での窒素終端構造の形成とLEED、AES、Q-massを用いた"その場"観察を試みる。
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