本年度は、昨年度に確立した自己組織化プロセスにより、シリコンをはじめとした数種類の基材上に異なる官能基を有する有機シラン系自己組織化単分子膜(Self-assembled Monolayer、SAM)を形成させ、その表面上での生体分子の吸着挙動に関する検討を行った。その結果、OTS-SAM表面(疎水性)では、溶液滴下30秒後に、吸着層が高密度に形成され、600秒後には、凝集体の形成が確認された。このような凝集体の形成は、OTS-SAMとHPFの疎水性相互作用に起因する。PEG表面上(疎水性)では、末端にあるCH_3基の影響により、HPF同士が凝集して吸着していったが、PEG鎖のゆらぎにより、網目状に吸着が進行した。PEG中の主鎖のエーテル結合(自由度が大きい)に起因するゆらぎにより、HPFの吸着阻害が生じるが、末端メチル基の影響により、吸着したHPFは疎水性表面と同様に高密度で凝集した。一方、親水性表面であるAHAPS上では、HPFは疎水性表面に比べ低密度に吸着した。600秒後には、局所的に凝集したHPFが観察された。より親水性の高いOH表面上では、HPFはAHAPS表面の場合と同様、低密度で吸着した。600秒後も、吸着したHPFの密度は低いままであった。これらの吸着挙動の違いの原因を調査するために、HPFおよび各種基板表面のゼータ電位測定を行った。pH7.7のPBS溶液におけるHPFのゼータ電位は-8.7mVと負の値を示した。OTS、PEG、AHAPS、OH表面のゼータ電位はそれぞれ-19.1、-25.1、-24.2、-33mVであった。HPFに対する基板表面の静電的斥力の大きさの序列は、OH表面>APAHS表面≒PEG表面>OTS表面である。すなわち、HPFの基板表面への吸着のしやすさの序列は、OTS表面>PEG表面≒APAHS表面>OH表面になることを明らかにした。
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