本研究の目的は、『ラマン分光を用いた金属と樹脂の異種溶着のメカニズム解明』である。可視あるいは近赤外レーザー照射による金属・樹脂溶着技術は、ここ数年で研究開発された革新的技術の1つである。レーザー照射によって金属・樹脂界面を変性させ、接着剤・接着器具なしで溶着できる。接着剤・接着器具無しの溶着技術は製造工程の生産性・環境性に多大な寄与をもたらす。自動車部品産業・電子機器産業・工作機械産業などへの実用化が精力的に進められている。しかしながら、その溶着メカニズムには未知な部分が多く残されている。そのため、溶着可能な金属・樹脂の組合せが限られている現状にある。本研究では、金属・樹脂の溶着メカニズムを解明するために、ラマン分光法を用いてレーザー照射中の樹脂の変性(化学変化、分子構造変化)をリアルタイムで観測することに主に取組んだ。 平成20年度には、研究環境の立上(保有ラマン分光器の測定時間の短縮化)や溶着可能な樹脂・金属におけるレーザー条件出しを行った。平成21年度では、その測定系を用いて異種溶着サンプル(金属:ステンレス、樹脂:アクリル)の溶着部、非照射部におけるラマンスペクトルを取得した。当初、ラマン励起レーザーにグリーンレーザーを用いたが、溶着部、非照射部のスペクトルに違いはなかった。そこで、より正確なスペクトルを得るために、新たにラマン励起レーザーに、より長波長の半導体レーザーを用いて測定を行った。その結果、測定系の問題(感度や測定波長)によってスペクトルを取得することができなかった。今後、スペクトル取得に向けて、フィルターの最適化、高感度の赤外カメラとの融合に取組み、本研究を引き続き実施する計画である。
|