生体吸収性マグネシウムデバイスの溶解速度は、生体内に埋入後患部の治癒状態に合わせて制御できることが求められる。合金組成による制御では、強度の変化を避けることができないため、合金の表面改質による溶解速度制御が望まれている。一方、汎用マグネシウム合金では陽極酸化による耐食性制御が一般的に行われている。しかし、陽極酸化皮膜の形態や組成が同合金の溶解挙動に及ぼす影響は解明されていない。そこで、平成20年度には、様々な形態の陽極酸化皮膜を作製し、皮膜の形態と溶解速度の関係について検討を行った。 水酸化ナトリウム中で純マグネシウムに様々な電圧を印加して陽極酸化を行ったところ、2Vおよび20Vを印加した場合は緻密で薄い酸化皮膜が、7Vおよび100Vを印加した場合は多孔質で数十umの厚い酸化皮膜が形成された。これらを細胞培養液中に合計14日間浸漬し、培養液中のMgイオンを定量した。陽極酸化時の電圧に寄らず、浸漬初日が最も大きな溶出量を示し、浸漬3-5日の間にほぼ定常に達した。100Vで陽極酸化した試料のみ、14日間では定常に達しなかった。14日目の溶出量を比較すると、7Vで陽極酸化した試料からの溶出量が最も大きく、100Vでの試料が最も低い値を示した。これより、陽極酸化皮膜作製時の電圧を調整することで、マグネシウム材の溶解速度を調節できることが明らかになった。一方、14日浸漬後の試料表面の腐食形態は、多孔質皮膜では局部腐食が発生していた痕跡があり、緻密な皮膜では全面腐食が起こっていた。皮膜中の孔を基点とする腐食が起こりやすいことが示唆された。 生体吸収性マグネシウム材は、機械的特性を鑑みると全面腐食が進行することが求められる。これより、本マグネシウム材には、緻密な皮膜が適していることが明らかになった。
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