生体吸収性マグネシウムの溶解速度制御を目指し、生体に安全な元素のみで構成される、平滑および多孔質の陽極酸化皮膜を作製した。純MgをCa含/不含K_3PO_4溶液中において様々な電圧で陽極酸化した純Mgを、pHをHEPES(Goodバッファー)で調整した、無機イオンのみを含む疑似体液に7日間浸漬し、Mgイオン溶出挙動および腐食形態について検討した。電解液へのCa添加により、表面に微量のCaを取り込ませられること、および浸漬初期のMgイオン溶出が抑制されることが明らかとなった。一方、本研究においては、陽極酸化皮膜中のCaの有無よりも、皮膜の形態が溶出量に及ぼす影響の方が顕著であった。すなわち、Ca有無に関わらず、多孔質の10μmの厚い皮膜の方が、緻密で平滑な1μmの薄い皮膜よりもMgイオン溶出量は小さかった。また、定電圧電解多孔質皮膜の方が、定電流電解多孔質皮膜よりも、小さい溶出量を示した。 pHをHEPESで調整した細胞培養液中で浸漬試験を行ったところ、無機イオンのみ疑似体液中よりもMgイオン溶出が抑制された。また、定電圧電解多孔質皮膜の方が、定電流電解多孔質皮膜よりも小さい溶出量を示した。この傾向は無機イオンのみ疑似体液中の結果と同様である。 上記の溶液中に浸漬後の表面は、比較的浅い局部腐食で覆われており、肉眼では全面腐食に近い形態を示した。腐食孔の直径は平滑な皮膜における方が多孔質皮膜におけるよりも大きかった。一方、Mgに特徴的な糸状腐食の発生はみられなかった。 最後に、陽極酸化では皮膜に取り込まれるCa濃度に限界があったため、水熱処理によるリン酸カルシウム被覆を行った。アパタイトもしくはリン酸オクタカルシウム被覆純Mgは、無機イオンのみ疑似体液中で、研磨まま試料の10倍以上高い耐食性を示した。また、局部腐食の発生も大きく抑制された。
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