昨年までの研究において、金属マトリックスに微細硬質粒子が大量に分散している材料(例えば、溶射超硬合金皮膜)に対して摩擦攪拌プロセスを施すことでバイモーダルナノ組織が得られることが明らかとなった。当該組織が極めて高い硬度を示したため、本年度はクロム炭化物粒子及びバナジウム炭化物粒子を大量に含有する工具鋼皮膜に対する摩擦攪拌プロセスを検討した。当該工具鋼皮膜は同軸クラッディングトーチ及び半導体レーザを用いたレーザクラッディングによってSKD61板材表面に形成され、炭化物は母材結晶粒界に偏析する急冷凝固組織となった。一般的に、このような急冷凝固組織は材料を脆化させるために好ましくない。これに対し、摩擦攪拌プロセスを施すことでクロム炭化物及びバナジウム炭化物は粉砕され、強力な攪拌効果によって母材に均一分散した。母材結晶粒はナノメートルオーダーに微細化され、理想的なナノ組織が形成された。大量の微細な炭化物は摩擦攪拌によって導入される歪量を増加させると共に、微細化した母材結晶粒の粗大化を抑制するものと考えられる。同種の焼結体が示す最高のビッカース硬度が約750HVであるのに対し、摩擦攪拌を施した皮膜のビッカース硬度は900HV前後の極めて高い値を示した。
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