コロイド粒子分散液を乾燥して得られる粒子膜の形成メカニズムを観察した。狭いガラスセル内で分散液を乾燥させ、粒子膜形成の動的過程を直接観察した。その結果、乾燥の進行方向と垂直に交わる周期的な亀裂が形成することを見出した。乾燥速度が大きいほど、亀裂周期は狭くなった。水の蒸発に着目した水のマスバランス式を考えると、亀裂の周期が乾燥速度の逆数に比例することが導かれ、実験事実を極めてよく反映していることが明らかにした。 従来、乾燥の進行方向と平行な亀裂の形成は広く研究されてきたが、直交する周期亀裂の形成は新たなモードである。この亀裂形成に特徴は、亀裂形成時に、粒子膜内部で圧力が変動し、ガラスセルの変形を伴う点である。始めは平面であったガラスが、乾燥に伴い凹面を形成する。さらに乾燥が進み、粒子膜内部の水が抜けて負圧が緩和され、ガラスが平面に戻ると、乾燥方向に直交する亀裂が形成する。粒子膜の乾燥過程ではこれを繰り返す。ガラスセルの変形度合いから圧力変動を概算すると、大気圧に対して0.4気圧程度、粒子膜内部で圧力が下がっていることが分かった。ポリマーなどの塗布膜の乾燥過程で、大きな応力が発生することは報告されているが、コロイド分散液の塗布乾燥膜においても無視し得ない大きな応力が粒子膜に加わることが明らかとなった。塗布乾燥を用いた薄膜形成において、応力発生を如何に避けるかが亀裂やしわなどの不具合モード抑制に必要であると言える。また、粒子集合体としての挙動として着目すると、乾燥によって充填された粒子膜内部で「負圧」発生と緩和が自発的に繰り返される系であり、一種の自励発振現象である。一見単純な乾燥現象に潜む、豊かな物理化学現象の一例であると考える。
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