昨年度までの研究成果により、小胞体内腔におけるカーゴタンパク質の一分子動態を、全反射顕微鏡を用いて解析する実験系を確立することができた。しかしながらこれまで用いてきた系では時間分解能の関係から小胞体膜に短時間結合したカーゴタンパク質のみがその動きを解析可能であることが問題であった。そこで解析の時間分解能をこれまでの約10倍、1msecレベルまで向上させたところ小胞体内腔を拡散する分泌タンパク質全体の動態をリアルタイムで捉え、解析することが可能になった。この新しく構築した実験系を用いてJump distance analysisによりカーゴタンパク質の動態を解析した結果、カーゴタンパク質の動きは細胞に対する様々なストレスに影響を受けることが判明した。今回は特にERストレスの一つとして知られている温度ストレスに着目して解析を行なった。高温ストレスの下では、カーゴタンパク質はアスパラギン結合型糖鎖がアクチン細胞骨格による制御を受けることで小胞体膜にtetheringするため、小胞体内腔におけるカーゴタンパク質の衝突頻度が低下することが分かつた。このように本手法では生化学的・遺伝学的解析では困難であった、一部の異常性を示すカーゴタンパク質の性質をリアルタイムかつ非侵襲的に解析することが可能である。 小胞体内の分泌タンパク質の動態を、単純拡散を含めて総合的に解析する手法を確立したことにより、動物細胞におけるバイオ医薬品の生産効率に影響を与える因子を容易に解析することが可能になった。このことはバイオ医薬品の生産性の向上を目的とする応用的研究の発展に直接寄与するものと考えられる。
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