研究概要 |
本年度は、自然界に広く存在する適合溶質の多様性を合成ライブラリーにより反映させるために、合成ライブラリーの充実と、ならびに合成ライブラリーの生体分子に対する影響の評価を目標に掲げ、研究を遂行した。 「合成ライブラリーの充実」であるが、今年度はカルボキシベタインに加えて、タウリンなどの基本骨格であるスルホベタインの合成に挑戦し、スルホベタイン誘導体の単離精製, 大量合成法の確立に成功した。次年度は合成したスルホベタインライブラリーを用いて\検討を行う予定である。 「合成ライブラリーの生体分子に対する影響の評価」については、Tetrahedron誌に報告している8つのカルボキシベタイン誘導体を用いて、適合溶質の構造多様性が酵素(α-グルコシダーゼ)活性に及ぼす影響について検討した。その結果、同濃度のベタインの存在下において、α-グルコシダーゼの活性には差が生じることを見いだした。中でも、アンモニウムカチオンの嵩高さを増したベタイン誘導体では、嵩高さが増すにつれ、酵素活性は顕著に上昇し、非存在下と比較してその活性は3倍にも達した(日本化学会89春季年会で発表)。以前の報告(Tetrahedron誌掲載論文)においても、DNA二重鎖の安定性に対してベタイン誘導体の化学構造の影響は類似して現れ、生体は何らかの理由でこれら適合溶質の細胞内での産生を制御している(使い分けている)ことが示唆された。次年度は、そのメカニズムについてさらなる検討を行い、細胞内での機能評価をすすめる予定である。また、本研究によつて作られたすべてのベタイン誘導体は素活性を1倍以上に向上させることができ、酵素を利用した生産プロセスへの応用も可能なことから特許の申請も行った。
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