造船設計者は後工程である生産工程も考慮した設計を期待されているが、製品およびプロセスの大規模化・複雑化が設計知識習得の本質的な難しさとなっていると考えられ、その難しさ、知識習得の負荷を情報技術により軽減することが喫緊の課題である。このため、本研究は、生産など下流工程に配慮した基本設計を支援するために、大規模かつ複雑な船舶の設計・生産に関する知識をオントロジー技術により蓄積・再利用するシステムを開発することを目的とする。本研究では、効率的な知識の蓄積・再利用を可能とするため、造船設計分野にオントロジーの適用分野・目的を限定する。先行研究で行った設計プロセスと設計データの関連付けにオントロジーを利用した知識管理システムの概念を拡張し、大規模かつ複雑な設計プロセス知識、製品知識を統合管理できる知識蓄積システムの開発を目指す。 昨年度は、造船会社へのヒアリングを通じて生産工程の課題の整理、設計工程についての情報収集を行った。また、オントロジーを利用して製品モデルと組立工程のプロセスモデルを統合して開発したシステムで、船殻ブロックの製品モデルおよび組立工程のプロセスを統合して記述できることを示した。記述された製品モデルおよびプロセスが統合された知識蓄積システムであり、記述されたモデルから部品のツリーと組立工程のフローダイアグラムといった2種類の知識が得られることを示した。 平成21年度は、生産工程における知識の抽出に焦点を絞って実証的な研究を行った。船舶の曲がり部分に利用される曲がり外板の三次元形状の計測による設計データとの比較結果から加工工程の知識の抽出を行うアプローチや、船殻ブロックの三次元形状計測および計算機でのバーチャルな搭載作業による知識・技能の形式知化を行った。 これらから、本研究ではフローダイアグラムによる抽象度の高い知識の記述手法および部材そのものの形状を含めた具体性の強い知識・技能の記述方法の2つについて実証的に示した。
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