本年度は、船舶の波浪中抵抗増加を新しい数値計算法である粒子法を用いて数値解析するために、粒子法のための水波の透過境界条件を開発した。 粒子法や有限差分法などの数値解析手法では計算量の理由から無限遠方までの計算領域を扱うことは困難であり計算領域を有限で打ち切らねばならず、遠方への波の放射現象を計算する際には何らかの波の透過境界条件もしくは波の減衰境界を用いる必要がある。粒子法では一般に空間解像度を可変にすることは容易ではなく、差分法などのように高粘性場による波の減衰領域を粗い解像度で解くことが難しく、高粘性場を設けることによる計算量の増大が負担になる。 そこで本研究では粒子法のための高粘性場を用いない波の透過境界条件を開発した。吸収式造波機の原理を数値計算に応用し、波の透過境界前面部の水位を取得し、線形の進行波として入射波の周波数成分を求め、その情報を基に境界部の粒子を運動させた。開発した境界条件を検証するために、進行波の伝播の計算を波周期が1.00[sec]と0.83[sec]の場合で行った。提案した波の透過境界条件を用いた計算結果を、従来手法である高粘性領域によって反射波を抑制する場合と比較した。その結果、本手法の計算結果は高粘性領域を用いた方法と同様に進行波を透過し、反射波を抑制できることが示された。また高粘性領域による手法に比べて計算領域を小さくすることができ計算量と計算時間を削減できることを確認した。本方法により粒子法による水波の計算が従来と比べて高解像度でかつ短時間で実施可能にした。 本研究成果は波浪中抵抗増加を低減する船首形状の設計指針を得るための数値シミュレーションを実用化に近づけるものである。これらの成果は日本船舶海洋工学会論文集に投稿し既に掲載が決定している。また平成22年度の日本船舶海洋工学会春季講演会においても発表する。
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