研究概要 |
平成22年度は、まず、平成21年度に製作した最高試験温度1000℃までのイオン照射装置用に、試験片に曲げ応力を負荷することができる高温応力負荷照射ホルダーを設計・製作した。照射ホルダーの曲率半径は25mmおよび50mmとした。次に、この装置を用いて、ナノ組織制御型タングステンの曲げ応力負荷下におけるヘリウムイオン照射を実施した。試験片は厚さ0.15mmとし、表面は粒度0,5μmのアルミナ研磨剤により鏡面状態になるまで研磨した。応力負荷照射ホルダーへの取付け時に試験片に発生する最大引張応力は、曲率半径25mmのときが800MPa、50mmのときが400MPaである。試験温度が最高900℃、引張応力が400MPaのヘリウムイオン照射においては、応力負荷無しのヘリウムイオン照射による表面損傷の状態と顕著な差は見られなかった。一方、引張応力800MPaのヘリウムイオン照射においては、試験片が照射ホルダー取付け時に破断してしまった。ナノ組織制御型タングステン素材自身の曲げ強度は従来研究からは1000MPaを超えると考えられるため、この破断の原因は、研磨時に微細欠陥が導入され、それがき裂発生の起点となってしまったことにあると考えられる。 本研究の結果から、現状のナノ組織制御型タングステン合金は、1000℃程度の高温における低エネルギーヘリウムイオン照射による表面損傷耐性は、ある一定程度のフルエンスを超えた場合、従来の焼結タングステンと顕著な差がなく、また、研磨条件などによる表面状態のばらつきに応じて、応力負荷時にき裂などの欠陥が導入される可能性が示唆された。よって、プラズマ対向機器の信頼性向上のためには、表面損傷が部材自身の機械特性(例えば熱機械疲労特性)などに及ぼす影響を調査し、温度やフルエンスなどをパラメータとした使用限界を明らかにすることが必要である。
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